第9章

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澄夜は驚異的な回復力で、一ヶ月も経たない内に退院が出来るまでに、怪我が治癒した。 影志は毎日見舞いに来ていたが、懇々と眠る澄夜を眺めたり、起きている時には当たり障りの無い会話をし、それに澄夜は相槌を返す日々。 まるで、澄夜の告白など無かったかのように、2人は静かに過ごした。 それでも、見舞いから帰る時には寂しげに影志を見つめる澄夜に、手を握り締め、明日も必ず来るからと告げてから帰るのが日課だった。 退院の前夜、帰る間際に影志を呼び止め、 「…退院したら、聞いて欲しいことがあるんだけど」 澄夜が、告げたのへ、 「ああ、…俺もある」 と、返せば、澄夜は管の抜けた左腕で顔を隠しながら頷いた。 お互いに今、どんな表情をしているのかは、わからない。 それでも、明日、隠して来たものを全て曝け出すのだろう。 痛みも、壊して捨てようとしたり、無い物だとばかり思っていた愛を。 しっかりと2人で向き合うために。
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