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包みを開けると、出てきたのはあの日、粉々に砕けたポンちゃん。
「…それは?」
「…陽治が家を飛び出して事故にあった原因。…いや、違うな…原因は俺だ…」
あの日、ほとんど澄夜の家に入り浸っている陽治と、絵本が完成してひと段落着いた影志は久しぶりにリビングで顔を合わせた。
また、自分が密かに好きな相手との惚気話でも聞かせられるのかと、うんざりしていた影志は、淹れたてのコーヒーを若干急ぎ目に飲み干そうとし、特に興味の無いテレビ番組を集中して見ている振りで、陽治に、おかえりとかなんとか声を掛けながらも、全く顔なんて見てはいなかった。
『スーちゃんが、本当に好きなのはエイちゃんだよ』
ソファに座る影志に、突然落とされた氷のような声。
「……は?」
そこで、今日初めて影志は陽治の顔を見て、ぎょっとする。
青白く冷たい幽霊のような表情。
『影志が好きなのも…スーちゃん、澄夜だもんね。良かったね、両想いじゃん』
口の両端が上がっただけの笑顔。
「おっ…前っ、何言って…」
動揺を誤魔化す為に、口に含んだ、いつもは美味しく感じる、まだ熱いコーヒーが、途轍もなく苦くて、喉の奥を荒らす。
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