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「『っあ……』」
落ちて砕けた瞬間、驚きに同時に声を上げて、視線を合わせるのも同時だった。
ああ本当に、さすが、双子だよ。
普段、どんなに外見以外は互いに似ていないと思って居ても、こんな時すら、同じ。
好みだって似てないのに、好きになった人さえも。
深く息を吸って、長い溜息を吐き出した。
冷静になりたかったし、なって欲しかった。
「…確かに、俺は澄夜が好きだよ。けどな、澄夜が好きなのは、間違いなくお前だけだ」
我ながら、大事に仕舞ってあった宝物が粉々に砕け、墓場に持って行くと決めた想いさえ白状させられているという現状に対する怒りも悲しみも、完璧に抑えられた落ち着いた声が出たと思う。
唯一の家族だ、これ以上分かり切ってる事で、争いたくはないし、虚しいだけだ。
『……ごめん。…頭、冷やしたいし、見た目は同じでも、全然代わりになんてならないの分かってるけど、同じやつ売ってる所見た事あるから買いに行って来る』
「要らねぇよ。…意味ねぇから」
陽治の言う通り、ポンちゃんの事は好きだけど、コレに関してだけは、見た目が同じだけの物に、価値なんて無い。そんな物は紛い物だ。
ただの同じ物が欲しいだけなら自分で買った方がマシだ。
『でも…』
「でもじゃねぇよ!気にしてねぇから…」
『……やっぱり買って来る』
「だからっ…」
要らないって言ってんだろっと怒鳴るのを遮って、
『どいつもこいつも嘘つきだっ!』
陽治は叫んで背を向けて駆け出す。靴を履いて扉が開いて閉じる音。
同じように追いかけて、靴を履いて扉を開く。
車のクラクションとブレーキ音と衝撃音。
視界に映る光景が理解できず、扉のノブに手を掛けたままで動けないから、扉を閉める事が出来なかった。
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