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夕方、女にタクシー代を渡して帰らせ、昼の電話相手に迎えに来いと連絡して、ホテルを出た。
「おかえり、陽くん」
珍しく男が自分で運転して来た黒塗りの高級車に乗り込めば、心から愛する者にかける笑顔で迎え入れられる。
男は約束のドタキャンについては一言も文句を言わず、
「昼は陽くんのことだから、ちゃんとしたものは食べなかったんでしょう?」
「食ったぜ。女」
「あははっ、いやーん陽治くんったらぁエッチィ。じゃあ夜は余計に、精がつくものでも食べないとね」
「チッ…お前が今日の昼予約してたレストランにしろよ。やっぱり俺も行ってみてぇ」
不機嫌そうに窓の外を見ていた陽治は、男の女を真似た気色悪い声音とバックミラー越しの意味深な眼差しに、舌打ちをし、嫌がらせに近い提案をした。
「うん、良いよー。お肉メインで、特別なデザートも用意してもらうね」
「はっ、あのレストランは予約するにも一年待ちの超人気レストランなんだろ?やっぱり、国を裏で動かしているって噂の男ならいつでも席があるってのか?澄夜」
「まあ、レストランのオーナーとちょっとね」
澄夜と呼ばれた男は含み笑いをし、アクセルを踏み込んだ。
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