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エピローグ
お盆明け、最初の出勤日のお昼休み。
昼食を終えて、PCのスケジューラーで午後の予定を確認していると、愛美ちゃんが秘書室を覗きにやって来た。
「優子さん……」
なんだかソワソワして、話を切り出したいけど切り出せないと、葛藤している様子だ。
私達の進展が伝わっていることは亮弥くんから聞いていた。私は愛美ちゃんを無人の応接室に招き入れ、小声でね、と口元に人差し指を立てた。
「優子さぁぁん!」
愛美ちゃんがいきなり抱きついてきたので、私はびっくりして少しよろけた。
「優子さん、ありがとうございます! まさか優子さんが弟を受け入れてくれるなんて……!」
「いや、逆にこっちが、私なんかで申し訳ないというか……。驚いたでしょ」
「弟の執念深さには驚きましたけど、私は最初からずっと、優子さんと弟を応援してたんで!」
「そ、そうなの?」
亮弥くんがこの前、私達が交流していることを愛美ちゃんに話したらビックリしてたって言ってたから、さすがに年甲斐もなくてドン引きされただろうなと思っていた。でも、この様子なら、考え過ぎだったらしい。
「優子さん、あの、弟はあのとおり、顔だけが取り柄の人間なんですけど」
愛美ちゃんは体を離して両手で私の手を握り、真剣な目でじっとこちらを見た。こうして改めて間近で見ると、少し亮弥くんと似ている。
「中身全然イケメンじゃないですけど、素直で真っすぐなヤツなんで。それだけは、姉の私が保証するので、ふつつかものですが、どうかよろしくお願いします!」
そう言って頭を下げる愛美ちゃんを見ながら、そこが何よりの取り柄だと思うよ、と、私は心の中で思った。
思えば、私が年下との交流に拒絶心を持たなくなったきっかけは、愛美ちゃんだった。愛美ちゃんの真っすぐで明るくて、私が何を言っても気にせず慕ってくれるアッサリとした人柄が、私に気を許させたのだ。
どうやらこの姉弟とは、そもそも相性が良かったらしい。
「ありがとう。せいぜい飽きられないように、がんばります」
私も頭を下げると、そんなことがあったら私があいつシメますんで、と愛美ちゃんは笑顔で拳を握った。
あんなにイケメンの弟がこんな年上の女に引っかかったら、普通はあまりいい気はしないだろう。亮弥くんの身内が愛美ちゃんで、本当に良かった。と思うとともに、ずーっと遡ると亮弥くんとの出会いは愛美ちゃんのおかげだったのだから、本当に愛美ちゃんには感謝しないといけない。
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