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「ごめん……、ごめんね、亮弥くん」
そんなつもりはなかった。亮弥くんを傷つけるつもりではなかったのだ。これで私から離れるかどうか判断してくれれば、私のことが嫌になったら離れてくれればそれでいいと、それだけのことだと思っていた。
ただ選択肢を与えただけのつもりだった。
亮弥くんが私の言葉に傷ついて心を痛めるなんて、そんな少し考えればわかるはずの簡単なことが、私は全くわかっていなかった。
亮弥くんの涙が、肩にじんわりと滲む。
「亮弥くん、ごめんね、私……甘えてた」
涙に呼吸を乱して震える亮弥くんの肩を、ぎゅっと抱きしめ直して、私は遠くの空を見上げた。
「――亮弥くんが、心地よく側にいてくれて、いつも楽しそうに、幸せそうに笑ってくれるから……、私、亮弥くんといて」
ぐっと言葉が詰まる。
「……亮弥くんといて、幸せだったよ。……だから」
もしかしたら、何でもない顔で、受け入れてくれるんじゃないかって、期待して、
「……甘え過ぎちゃった。ごめん。酷いこと言って、ごめんね。……でももう、離れていいから。私にこれ以上縛られなくていいから。亮弥くんは、自由に亮弥くんの幸せを求めていいんだよ」
言いながら、涙がにじんできた。
楽しかった日々が終わる。
もう終わるんだという実感を、深く心に刻みつけた。
ぐす、と鼻をすする音がして、亮弥くんが顔を埋めたまま、くぐもった声で言った。
「それじゃ、俺とつき合ってください」
「……え?」
意味がわからずに、体を離して亮弥くんの顔をのぞき込んだ。
一瞬、涙で濡れた顔が見えたと思ったら、ぐっと背中を引き寄せられて抱きしめ返された。
「わ、ちょっと……」
胸がぴったりと密着して、亮弥くんの体温が伝わってくる。さすがにこれには私もビックリして、うん、ビックリして、ドキドキと胸がうるさくなって、顔が熱くなるのがわかった。
「俺は……優子さんがそんな思いを抱えて生きてきたなんて、全く考えもしなかった自分が、悔しくて……」
「え……」
「なんで優子さんがそんな思いして生きないといけなかったんだろうって……、さっきの話聞いて、本当に理不尽で、悲しくて……本当に、胸が痛くて……」
「亮弥くん……」
「俺は優子さんは間違ってないと思う。心が綺麗な人が否定されて苦しむなんて、絶対おかしいよ。だって世の中がみんな優子さんみたいな心を持っていたら、天国みたいになるってことでしょ? それは絶対良いことなのに、なんで肩身の狭い思いして生きなきゃいけないの?」
亮弥くんはほとんど涙ながらに、誰にともなく問いかける。
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