1671人が本棚に入れています
本棚に追加
/126ページ
「だからって、俺が側にいて何をしてあげられるかなんて、本当にわからないし、俺が優子さんを傷つけることもあるかもしれないし、無責任なこと言えないけど……、でも、それでも俺は、優子さんの側にいたいです」
「で、でも……」
「俺のこと信じられないとか、容姿とか、年齢差とか、子供がどうとか、他に何が来たって、俺にとっては全部小さいことなんですよ、優子さんを失うことと比べたら。だって俺は、ずっと優子さんみたいな人を探してたんです。嘘とか悪口とか言わない、心の綺麗な人。本当に嘘偽りなく優しい人。せっかくその人が目の前にいて、しかも俺といてちょっとでも幸せだと思ってくれるのなら、離れる理由なんかないです。だから――」
亮弥くんは腕を緩めて体を離し、私の目を見た。
真っすぐで、強い意志のこもった瞳が、街灯の灯りを湛えて美しく光っている。
「優子さんが俺のこと信じなくても、俺は俺の意志で、優子さんの側にいます」
強い光に中てられるように、心が塗り替えられていくのがわかった。
私は愚かかもしれない。
人には裏の感情があって、決して表面だけで信じられる存在ではないと、知っているはずなのに。
誰も私のことなんて理解しないと学んできたはずなのに。
もう二度と、誰に心を動かされることもないと思っていたのに。
自分の気持ちさえも信じられないのに。
なのにまた信じそうになってる。
この人だけは私を受け止めてくれると、期待しようとしている。
ううん、それよりも、もっとわかりやすく、もっと単純に。
私の話を言葉どおりに受け止めて、こんなに言葉を尽くして理解を伝えてくれる亮弥くんを、好きだと、失いたくないと、抗いきれないほどの強い感情が込み上げた。
ぱたぱたと涙が頬を流れ落ちていく。
亮弥くんの指がそれを優しく拭う。
私の負けだ。
返事をしなければと、口を開く。
「私は……」
「はい」
「私は、どういう返事でも、亮弥くんの思いを受け入れようと、決めてたから……」
「はい」
「亮弥くんが、こんな私でも、本当に良いのなら、よろしくお願いします……」
目の前の美しい顔が、みるみる満面に笑みを浮かべていく。
「っしゃー!!」
今度こそ本当に安心しきった、喜びに溢れる亮弥くんの顔を見て、私の胸はなすすべなく甘く軋んだ。
最初のコメントを投稿しよう!