第一部 四 夢みたいな時間

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「亮弥くん、その服かっこいいじゃん」  美術館の庭を入口に向かって二人で歩いていたら、優子さんがにこにこして言った。俺は名前を呼ばれたことと褒められたことでビックリして内心テンパりながらも、平静を装った。 「そうですか?」  そうですかってなんだよ。 「思ったより大人っぽくてびっくりしちゃった」 「いや、コレはもう、勝負服なんで。姉が優子さんに恥かかせないようにまともな格好で行けって言うから……」 「あはは、別に気を遣わなくていいのに。でもこれなら親子には見えなくて済むかもね」 「親子って!!」  見えるわけないじゃん、どう見ても、カ、カップルでしょ……! 「だって亮弥くん十八なんでしょ? 私もう三十だもん」 「俺の母親四九ですよ」 「あ、そうなの? それじゃ親子は言いすぎか。でも恋人には見えないだろうし……年の離れた姉弟には見えるかな? あっでもこのくらいの年齢だと姉弟で美術館はないのかな」 「まぁ確かに姉とは基本どこも行かないですね。でも優子さんすごく綺麗だし、その……彼女に見えなくも、ないかなって……」 「あはは、すごい言わせた感あるけど、ありがとう」  優子さんは完全にお世辞と受け止めて笑っている。でも「イヤ、さすがに彼女はないよ~」とは言わなかった。ただそれだけで、俺はものすごい幸せを感じていた。  本当は「優子さん超若いっすよ! 三十って聞いてビックリしましたし! つーか俺は普通にアリなんで!!」って言いたいことが頭の中ぐるぐるしてたけど、さすがにそこまで言うと引かれるかもしれないと思って黙っていた。  美術展は正直よくわからなかった。絵はとても綺麗だったし、大きい絵もあれば小さい絵もあって、色が塗られているものもあれば白黒の絵もあって、変化があって楽しめた。でも、絵に込められた思いとか、作者が表現したかったこととか、そういうのはちょっと見当もつかなかった。あと、このレンブラントさんの作品の特徴もイマイチピンと来なかった。美術真面目に勉強しときゃ良かったと思った。
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