第一部 四 夢みたいな時間

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 優子さんは特に解説するでもなく、ひたすら絵を眺めていた。「私じっくり観るタイプだから、先に進んでいいよ。早く観終わったらカフェで待っててくれてもいいし」と言ってくれたけど、それじゃせっかくのデートが無駄じゃん! と思って、優子さんにピッタリついて一緒に回った。「暇じゃない? 大丈夫?」と時折こちらをチラチラ気にかけながら、一枚一枚の絵を至近距離まで近づいて観ていく優子さんをそっと眺めているのが、俺にとってはすごく贅沢で幸せな時間だった。  展示を観終わると、優子さんはミュージアムショップでさっき観た絵のポストカードを手に取った。 「買うんですか?」 「うん、記念に一枚だけ。ポストカードなら邪魔にならないし、観たこと忘れないでしょう?」 「じゃっじゃあ俺も記念に……」 「ほんと? それじゃ買ってあげる」 「えっ」 「どれがいい?」 「えっと、同じやつで……」 「はーい」  優子さんはなんでもない顔で会計を済ませ、一つを俺に手渡した。小さい紙の袋に入ったその物体を受け取る瞬間、優子さんの指と俺の指が袋を介してひと続きになる。  う、うわぁ……!  数センチ先にある優子さんの指に胸がどきどきと高鳴って、緊張と喜びで両手が震えた。 「あ、ありがとうございます……!」 「いえいえ」  初プレゼント……!  俺は優子さんが触れたこの袋ごと取っておこうと心に決めた。  内心相当テンションが上がっている俺に気づく様子もなく、優子さんは「この絵のポストカードあって良かった~」と嬉しそうにニコニコしている。  俺だけが心の中で初デート、初プレゼントと舞い上がっている。それは冷静に考えたら悲しいことかもしれないけど、二人の時間が恋愛イベントとして心に刻まれていくことにニヤニヤが止まらなかった。  この先、優子さんもこのポストカードを見る度に俺のことを思い出してくれるのだろうか。それがただの「後輩の代わりに来た弟と観た」というだけの記憶でも、俺と一緒に回って、俺にも同じポストカードを買ったことを、覚えていてくれたら、最高だ。  
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