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とりあえずお昼ごはんということで、せっかくなので美術館のレストランで食べることにした。
中庭に面した席に座り、優子さんと同じプレートランチを頼んだ。促されるままに手前の席に座ったけど、注文を済ませて前を見たら俺の席からは中庭がよく見えて、優子さんは背を向ける形になっていたので、これは失敗したのでは、と思った。
「あの、席、代わります?」
そう聞くと、優子さんはニコニコ笑って、
「ううん、私はまた一人で来ることもあると思うから、いいの」
となぜか嬉しそうに言った。
さすが、これが大人の余裕ってやつか。勉強になる。俺もこういうこと優子さんにしてあげられるようになりたい。
プレートはパスタメインでいろいろ盛られていて、サラダも付いてきた。食事を始めると、優子さんが話題を振ってくれた。
「レンブラント展、退屈だったんじゃない?」
「あっ、いや……。正直よくわからなかったけど、楽しかったです」
「そうなんだ」
「優子さんは絵が好きなんですか?」
「うん、観るのは好きだよ。全然詳しくないけど」
「え?」
「よくわからないで観てるの。愛美ちゃんにも変わり者扱いされるんだけどね」
すごく意外だった。あんなに絵に近づいて、興味深そうに観ていたのに。
「えっ、なんでわからないのに観るんですか?」
「なんだろう……。心の洗濯? 目の保養?」
「はぁ……」
「ごめんね、意味わからないよね」
優子さんは、あははと笑った。
「えっと、わからないので、知りたいです」
「そんな深い意味はないけど。ほら、心って日々汚れるでしょ。何か上手く行かなかったり、理不尽なこととかあってストレス溜まったり。それ自体はわりと忘れるほうなんだけどね、なんか濁りだけが残っていくっていうか。そうなると観たくなるんだよね、美術品を。上質なものをたくさん見て、心に入れていくと、浄化されるんだよね、なんだろう、悪いものが」
「悪いもの」
「そう。その感覚が好きでね、だから、ただ観てるだけなの。何も考えないし、作品を読み解いたりもしない。もちろん、作品のことがもっとわかると楽しいだろうと思うし、そういうテレビ番組とかも観ちゃうけどね、でも、自分が実際観るときは、そういう見方じゃないし、そういう目的でもないんだよね」
「わかったような、わからないような」
「あはは、だよね」
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