第一部 四 夢みたいな時間

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 心の汚れか……。気にしたことなかったけど、確かにいつも何かしら嫌な気持ちってあるのかも。大学かったりーなーと思ったり、バイト先で腹立つ客が来たりとか、電車混んでて座れねーとか、冷凍庫のアイス姉ちゃんに食べられたりとか、いろいろ。  確かに絵を見てるときはそういうの忘れてた。絵っていうか、どちらかと言うと見ていたのは優子さんのほうだけど。 「……ちょっと、わかるかも」  そう言うと、優子さんは“おっ”という顔で俺の目を覗き込んだ。 「優子さんも心汚れるんですか?」 「汚れるよ~。汚れる汚れる。もっと綺麗でいたいと思うよ」 「心がですか? 綺麗でいたいとか考えたことないな……」 「んー、考えないのが普通なのかもね」 「元々が綺麗だから汚れとか気づくんじゃないですかねー」  ナイフとフォークを動かしながら何気なく呟いて、ふと優子さんを見たら、すごく優しい顔で微笑んでいた。  ヤベェ、超綺麗なんだけど……。俺何か良いこと言った? 何か優子さんに刺さった?  そのままなんとなく無言になって、お互い少し照れ笑いみたいになりながらごはんを食べた。なんか、良い感じな気がする。すげぇデートっぽい。超彼氏彼女っぽい。 「亮弥くんの顔も美術品みたいに綺麗だよね」  言われて、俺はなんとなく目を伏せた。 「そうですかね……」 「ごめんね、言われるの飽きてる?」 「えっ」  ビックリして顔を上げた。そんなことを指摘されたのは初めてだった。 「当たり?」 「えっと、その、ちょっとだけ……」 「そうだよね、それだけ整ってたら皆から言われちゃうよね」 「そうなんです……。あっ、なんか認めるのも嫌味かもですけど」 「あはは、いいじゃん、事実なんだからさ。でも亮弥くんくらいイケメンでも、言われて卑屈な気持ちになっちゃうものなの?」 「いや……なんていうか顔ばっかり言われて、それ以外何も良いとこないし、逆に期待外れみたいな感じになるんで……」 「へぇぇ?」  優子さんは目を丸くする。 「私は今日話してみていい子だなーと思ったし、今のところマイナス要素見つけられてないけどなぁ。何かある?」  そう言いながら首を傾げて顔を覗き込まれた時、俺は、優子さんが俺の運命の人に違いないと思った。こんなに気持ちを察してくれて、俺に幻滅しないでくれる人なんて、他にいるはずがない。
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