第一部 五 返事

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 亮弥くんは恐る恐る手を放して、黙ったままじっと私を見つめた。 「亮弥くん」 「はい」 「ありがとう、好意的に思ってもらえてすごく嬉しいです」 「え……!」 「でもごめんね、未成年の子と恋愛というのは、ちょっと難しいかなと思います」 「あ、ハイ……」 「私がもっと若かったら良かったんだけどね」  そう言って笑って見せたけど、亮弥くんは切なげに眉を下げていた。 「応えられなくて、ごめんなさい」  突っぱねる感じにならないようできるだけソフトに、でも結論だと伝わるようキッパリとした口調で言った。  悲しそうに目を伏せて、それ以上何も言わなくなった亮弥くんを見て、すっと手を握って慰めてあげたい気持ちになった。そんな顔しないで、大丈夫だよ、と。でもそんな顔させてる張本人が、それを変えてあげることもできない立場で、中途半端なことをしたらダメだ。 「行こうか」  私はポケットに両手を封印して、駅に向かって歩き始めた。 「あの……!」  再び呼ばれて、足を止めて振り返った。 「もう……会えませんか?」 「……そうなるかもね」 「それじゃ、もう少しだけ……もう少しだけお話できませんか?」  困ったな、という気持ちと、少しホッとした気持ちと、半々だった。そうすることで亮弥くんが少しでも楽になるなら、そうしよう。 「わかった。それじゃ、カフェに入ろうか」  私はもう一度亮弥くんに背を向けて、駅ビルのカフェへと歩き出した。    カフェは混んでいて、先に亮弥くんに席を取っててもらおうとしたら、私の日替わりコーヒーのほうがオーダーが簡単だからと言われて、私が座って待つことになった。  席について、レジカウンターでオーダーしてお金を払う亮弥くんを見ていると、本当に美形で目立っていて、あんな子が自分なんかを好きになるなんて信じられないなぁ、と思ったら可笑しくなっちゃって笑いが込み上げてきたのを、ぐっとかみ殺した。  こんな幸運、私の人生で最初で最後だろうな。そして、まだ未成年の亮弥くんは、これから素敵な女の子との出会いがたくさんあって、私のことなんてすぐに忘れてしまうだろう。  もし亮弥くんが大人だったら、私の気持ちは動いただろうか。  一瞬そう考えたけど、多分答えはノーだ。新しい出会いに胸をときめかせるには、私の心は熱を失い過ぎてしまっている。  
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