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亮弥くんは恐る恐る手を放して、黙ったままじっと私を見つめた。
「亮弥くん」
「はい」
「ありがとう、好意的に思ってもらえてすごく嬉しいです」
「え……!」
「でもごめんね、未成年の子と恋愛というのは、ちょっと難しいかなと思います」
「あ、ハイ……」
「私がもっと若かったら良かったんだけどね」
そう言って笑って見せたけど、亮弥くんは切なげに眉を下げていた。
「応えられなくて、ごめんなさい」
突っぱねる感じにならないようできるだけソフトに、でも結論だと伝わるようキッパリとした口調で言った。
悲しそうに目を伏せて、それ以上何も言わなくなった亮弥くんを見て、すっと手を握って慰めてあげたい気持ちになった。そんな顔しないで、大丈夫だよ、と。でもそんな顔させてる張本人が、それを変えてあげることもできない立場で、中途半端なことをしたらダメだ。
「行こうか」
私はポケットに両手を封印して、駅に向かって歩き始めた。
「あの……!」
再び呼ばれて、足を止めて振り返った。
「もう……会えませんか?」
「……そうなるかもね」
「それじゃ、もう少しだけ……もう少しだけお話できませんか?」
困ったな、という気持ちと、少しホッとした気持ちと、半々だった。そうすることで亮弥くんが少しでも楽になるなら、そうしよう。
「わかった。それじゃ、カフェに入ろうか」
私はもう一度亮弥くんに背を向けて、駅ビルのカフェへと歩き出した。
カフェは混んでいて、先に亮弥くんに席を取っててもらおうとしたら、私の日替わりコーヒーのほうがオーダーが簡単だからと言われて、私が座って待つことになった。
席について、レジカウンターでオーダーしてお金を払う亮弥くんを見ていると、本当に美形で目立っていて、あんな子が自分なんかを好きになるなんて信じられないなぁ、と思ったら可笑しくなっちゃって笑いが込み上げてきたのを、ぐっとかみ殺した。
こんな幸運、私の人生で最初で最後だろうな。そして、まだ未成年の亮弥くんは、これから素敵な女の子との出会いがたくさんあって、私のことなんてすぐに忘れてしまうだろう。
もし亮弥くんが大人だったら、私の気持ちは動いただろうか。
一瞬そう考えたけど、多分答えはノーだ。新しい出会いに胸をときめかせるには、私の心は熱を失い過ぎてしまっている。
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