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「ありがとう。千円で足りる?」
お財布を出そうとすると、亮弥くんは手で制止した。
「いや、これは俺が。このくらいは」
その顔があまりに真剣だったので、これは男の子のプライドかな? と思って素直に甘えることにした。
「そう、ありがとう。それじゃいただきます」
そう言うと、亮弥くんはホッとしたような笑顔を見せて、
「良かった、笑ってくれて」
「ん?」
「ここに来るまで優子さん、ちょっと冷たい感じだったから」
鋭いな、と思った。優しくしないようにぐっとこらえていたから、その変化を見逃されなかったのか、あるいはポケットに手を入れて黙っていたからそう感じられたのか。
「あはは、そう? そっちが本性かもよ」
「いや、それはないと思います」
亮弥くんの返事が確信的なものだったので、思い込みで言っているのか、本当に気づいているのか、少し気になった。
「それ、何?」
「えっと、カフェモカです」
「甘いの好きなの?」
「好きですね~。あっ、子供だと思ってます?」
「ううん。甘いもの好きな男の人ってけっこう多いよね」
「そうなんですか? 優子さんは甘いの嫌いなんですか?」
「好きだよ。でもコーヒーはブラックで飲みたいかなぁ」
「大人ですね」
「あはは、大人なのかな」
そこまで話して、イヤイヤ待てよ、振った直後に楽しく会話していいんだっけ? と、はたと気づいた。
コーヒーを一口飲んでなんとなく無言になると、亮弥くんも少しソワソワした感じになった。
「あの……、俺、一目惚れって言いましたけど……」
「うん」
「外見で好きになられるのって俺はあんまり好きじゃなくて、その……、自分が嫌なことを優子さんにしてしまってるみたいなのが、すごくダメだなって思うんですけど……。でも、なんていうか、最初に会った時、優子さんがすごくナチュラルに優しくて、それもあって好きになっちゃって、今日話してても、ちょっとした気づかいとか、俺の言葉をちゃんと受け止めてくれたりとか、そういう優しいところがやっぱり好きだなって思って……。だからあの、外見だけじゃ、ないです」
それを聞いて私は、やっぱりやらかしてたと思った。
亮弥くんが一生懸命想いを言葉にしてくれているのに、私はどんどん気まずい気持ちになっていった。なぜなら、私は大抵いつも“優しさ”に好意を持たれて、それが最終的にいい方向に行ったことがなく、苦い思い出しかなかったからだ。
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