第一部 五 返事

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 こちらにそんなつもりは全くないのにもかかわらず、普通に振る舞うと“優しい”と言われてしまうことが、昔からよくある。私自身は何を“優しい”と受け取られているのか、正直なところいまいちピンと来ていない。ただ、本音を丸出しにしていると、それを特別な好意と誤解されてしまいがちなことはわかっている。  にもかかわらず、今日は相手がまだ子供だと思って油断して、思ったことを自由に口にしていたから、きっとまた何か誤解を与えるような発言をしてしまっていたのだろう。  “優しさ”というものを人より多く持っているとして、それがいつもプラスに働くのであれば、とても素晴らしいことだと思う。でも実際は、世間一般と自分の考えがかみ合わないことが多々あって、私が素直な思いを述べると“世間知らず”“綺麗事”と失笑されたり、煙たがられたり、場がしらけることも多い。  だから、特別に好かれず嫌われもせずに過ごすには、周囲とのバランスを取って、できるだけ本心を封印しないといけない。  それは相手が恋人でも然りで、最初は惹かれたはずの“優しさ”がいつしか癪に障るようになった時、その関係は上手く行かなくなってしまう。優しさを捨てるか、別れるか、どちらかとなれば、当然私は別れを選ぶ。そこは案外、冷徹だったりする。  物事に対して、同じような捉え方ができる人と出会えたら、そういうトラブルもなくなるのかもしれない。そう思って、自分と合う人を探し続けたけど、結局見つからないまま。虚しくなって恋愛に意味を見いだせなくなったのが今の私だから、いくら未成年とはいえイケメンで気のいい子に告白されて全くときめかないのも、許して欲しい。  まぁでも、そんな事情は亮弥くんには関係ないので、 「ありがとう」 と私ははにかんで見せるのだった。 「まあでも……俺が未成年な時点で、対象外なんですよね……」 「それは……そうだね、でも亮弥くんと私じゃ見た目が全然釣り合わないし、もっと同世代の綺麗な子とおつき合いしたほうがいいよ」 「優子さんより綺麗な人なんていないですよ」 「そう思ってくれるのは今だけだって。あと五年もしたら黒歴史になるよ~」 「それじゃ、五年経ってまだ好きだったら? 五年後なら俺も社会人になってますし」 「先のことは何とも言えないかな。だって、五年経ったら私も結婚してるかもしれないし」 「結婚……」
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