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どこか吹っ切れたように屈託のない笑顔を見せた亮弥くんを見て、ホッと胸を撫で下ろした。
「私も一日楽しかったよ、ありがとう」
地下鉄銀座線の改札で亮弥くんを見送ってから、私はまた地上に出て、夕陽を背にのんびりと歩き始めた。
さすがに夕方になると凍える寒さだ。でも、久しぶりの恋愛アプローチに少しの火照りを感じていた頬には、ヒヤリと冷たい空気が心地よかった。
夢みたいな一日だったなー。この年になって十八の子に告白されるなんて。ドキドキすることはなくても、純粋に嬉しさはあるし、多少の高揚感もある。
亮弥くんはいい子だった。まだ若いからなのか、真っすぐでピュアで、それに話を真面目に聞いてくれたし、自分の思いもキチンと言葉にできる子だった。年下だからうまく話せるか心配だったけど、気負わず一緒にいられた。なんなら話しやすかった。普通に気が合ったと思う。友達になることも断ったのは、ちょっともったいなかったかもしれない。
本人が自分は顔だけなんて思っているのが本当に意外だ。きっとモテるはずだけどな。顔が良すぎる分、外見しか見ない子が寄って来やすいとか? それでも中身を知ったらもっと好きになりそうなものだけど。……そう言う私が好きになっていないのはさておき。だって年齢差がありすぎるよ、十二も下だもん。上ならまだしも、下だもん。未成年だもん。
五年後は私は三五。亮弥くんは二三か……。
考えて、今よりもっと難易度が上がることに気づいた。いちばんチヤホヤされるお年頃の亮弥くんと、そろそろ子供を産めるかどうかも怪しくなりそうな私。うん、絶対ないな。良かった、もしかしたらあり得るかもなんて言わなくて。
亮弥くんとのことは、大事な思い出にしよう。今日買ったポストカードと半券と一緒に、大事にしまっておこう。
途中で買い物をして家に帰り着く頃には、もう真っ暗になっていた。部屋に入って携帯を開くと、愛美ちゃんからメールが届いていた。
“優子さん今日はすみませんでした。弟今帰って来ました! 体調も回復したので、週明けは元気に出社できると思います。チョコ持って行きますね!”
はぁっとため息が洩れた。
こうして、些細な嘘なら人は平気で重ねてしまう。私には無理だ。不誠実なことはできない。でも愛美ちゃんは、私に簡単に嘘をつけてしまうんだ。
そう思うとなんとなく返事をする気になれず、そのままにしてしまった。
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