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月曜日に出社すると、先に来ていた愛美ちゃんがすぐにデスクから立ち上がって話しかけてきた。
「優子さん、嘘ついてすみませんでした!」
「おはよう愛美ちゃん」
「おはようございます。あの、弟から聞きました、優子さんに本当のこと言ったって……。卑怯なことしてすみませんでした。弟、あの飲み会の日からずっと優子さんのこと好きで……、でも私が間に入らないと会えるチャンスもないし、優子さんに正直に言っても会ってもらえないだろうと思って……」
確かに、先に話を聞いてたら断ってただろうな。
「いいよ、もう」
愛美ちゃんが私の気持ちよりも弟である亮弥くんの気持ちを優先させるのは、当たり前のことだ。それを、自分の気持ちをないがしろにされたなんて一々傷つくのは、私自身の問題なのだろう。
「愛美ちゃんの言うとおりだし、私も楽しかったから」
「ほんとですか! 弟に伝えときます!」
「いい、いい、伝えなくて」
「でも弟、すごい人見知りで、馴染みのない人と全然話さないんですけど、大丈夫でした?」
そう言われて、一瞬何を言っているのかわからなかった。
「亮弥くんが人見知り? まさか」
「えっ、超人見知りですけど。打ち解けるまで半年はかかるタイプですよ」
「嘘だぁ~。すごく話弾んだよ」
「えっ嘘! すごい頑張ったんだな、あいつ……」
愛美ちゃんがしみじみ言うので、つい吹き出してしまった。
そうか、亮弥くんがあんな風に話してくれるのって、珍しいんだ。そう思うと嬉しくなった。
しかし、そんな人見知りの子を突然来させて、めちゃめちゃ気まずい感じになったらどうするつもりだったんだろう。愛美ちゃんはホント、そういうとこ適当なんだから。まぁでも、結果オーライってことで、いいか。
その後、愛美ちゃんから亮弥くんの話を聞くことはなくなった。一応気を遣ってくれたのだろう。
そのうち私に異動の話が来て、なんと唐突に社長秘書をやらされることになった。秘書になるとそれまでよりも仕事が忙しくなり、愛美ちゃんとも会社の廊下でたまに顔を合わせる程度になっていた。
そのまま年月が過ぎて、私と亮弥くんが再会するのはなんと八年後。私はアラフォー、亮弥くんはイケメン盛りの二六歳だった。
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