第二部 一 昔の恋人

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 が、そんな様子は微塵も見せず、口では冷静に受け答えできるのが秘書で培ったスキルのひとつである。 「どこで聞いたの? そんなこと」  私は事もなげに答えた。 「西山さんご本人からです」 「え……?」  正樹が自分から言うはずないという思いと、お互い口止めしていたのに何で約束を破ったんだろうという不信感とで、思わず眉をひそめてしまった。 「なんで正……、西山さんが?」 「すみません、私が無理やり聞き出したんです」  詳しく話を聞くと、こういうことだった。  営業事務の桜井さんは、顧客からの要望を定期的に取りまとめて商品開発部に報告している。その関係で正樹と接することが増え、優しくて頼れる正樹に憧れるようになった。  ちなみに正樹は私より五つ年上。桜井さんとは十歳以上離れている。二十代の女の子が年上の男性に憧れるのはよくわかる。私もそうだった。子供っぽい同世代とは話が合わなかったから、いつも大人の落ち着いた男性ばかり見ていた気がする。正樹は五つしか離れていないとは思えないくらい落ち着いていて、紳士だった。二五歳からつき合い初めて約三年間、基本的にはとても心地いいおつき合いをしていた。このまま正樹と結婚したら幸せになれるだろうと思っていたし、お母さまにもご挨拶を済ませていたくらいの仲だった。  先週末、桜井さんは商品開発部の同期の子に取り持ってもらい、正樹を含めた数人で飲み会をしたらしい。まだ独身だとは聞いていた正樹に、彼女もいないと確認した桜井さんは、好意をストレートに伝えてアプローチした。でも笑って流されるばかりでまともに取り合ってもらえないので、「はぁ~、やっぱり優子さんくらいじゃないとダメかぁ~」と何の気なしに呟いたら、「な、なんで優子……?」と正樹が動揺した。  もちろん桜井さんは私達のことを知っていたのではない。ありがたいことに正樹に釣り合いそうな理想の女性として私の名前を挙げてくれたらしい。
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