第一部 四 夢みたいな時間

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 結局、昼食も優子さんに奢られてしまった。俺も一応所持金はあったので店を出てから払おうとしたら、「未成年の子に出させたら大人として恥ずかしいからやめて」って笑われて、そのまま甘えてしまった。  その後二人で上野公園を見て回った。美術館を出てから大道芸をしばらく見て、噴水広場を遠目に見ながら動物園のほうに歩いて行った。  木々は葉が落ちて寒々としていたけど、天気が良かったので茶色い枝が青空に映えていた。動物園周辺は家族連れが多くて、パンダ焼の店の側の小さな遊園地みたいな遊び場でも子供達がたくさん遊んでいた。  動物園トークをしながらさらに歩いて、優子さんオススメの上野大仏を見た。上野に大仏があるなんて聞いたことなかったから不思議に思いながら階段を上ったら、なんとでっかい顔だけが地面に置かれていた。もともとは大仏があったけど関東大震災で崩れてしまって、顔だけが残されたらしい。そのシュールさが好きだと優子さんは言っていた。  何をするでもなくただ散策しただけだけど、すぐ隣に優子さんが居て、話しながら何度も俺を見上げてくれて、のんびり穏やかに二人の時間が進むのが、すごく幸せだった。デートって何も気を張らなくても、こんな感じでいいんだと思った。  でも楽しい時間はあっという間に過ぎて、最後に有名な西郷隆盛の銅像を見たところで、それじゃ駅に向かおうか、となった。  まだ優子さんに何も伝えられてない。これが終わったら次はいつ会えるかわからないのに。  せめてメアドでも聞ければ……、でも「何で?」って聞かれたらどうしよう。前回も教えてもらえなかったし、また軽くあしらわれるかもしれない。  優子さんは公園の出口に向かって階段を下り始めた。一歩遅れて俺もついて行く。  このまま終わっていいのか?  いっそもうちゃんと気持ちを伝えたほうがいいんじゃないか?  今なら好意的に思ってくれているし、冷たく突き放されることはないだろう。  優子さんはタン、タン、タンとリズミカルな音を立てて一段ずつ下っていく。  その倍くらいの速さで鼓動が打って俺をまくし立てる。  どうする。  行くか?   行っちゃえ! 「あのっ……!」  優子さんが驚いて振り返る。  俺は咄嗟に優子さんの手首を掴んでいた。 「ビックリした、どうしたの? 滑った?」 「あの、俺……」  折れてしまいそうな細い手首。驚いたまま俺を見上げる瞳。半開きの唇。タートルネックから覗く白い首筋。  胸が高鳴って、もう言葉を飲み込むことができない。 「俺っ、優子さんのこと、好きです……っ」  
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