第1章 灯台守《とうだいもり》のパラディ先生

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第1章 灯台守《とうだいもり》のパラディ先生

灯台守のパラディ先生がランタンを左手に、右手で石壁を伝いながら螺旋階段を上ります。 中型の雑種犬・ペスは、主人の足元に注意しつつ後を追いました。 彼らは灯台のわきにある小屋に住んでいます。 ケイン村の周辺では、かつて航空事故が多発しました。 北部の山岳地帯に飛行船や飛行機が衝突・墜落するということが、立て続けに起こったのです。 そのために30年ほど前、港からつづく陽当たりのよい丘の上に、石造りの航空灯台(light beacon)が設置されました。 パウロ・アンジェロス・パラディは、70歳までケイン村で教師をしていました。 退職後、夜毎に灯台へ明かりをともす、灯台守の職に就いたのです。 ほんとうはもう、「先生」ではありません。 でも彼は何十年も「パラディ先生」と呼ばれていましたし、村の大人のほとんどが教え子なので、誰も他の呼び方を思いつかなかったのです。 ペスもほんとうはユリース・ペスカトーレという名前でした。 「ユリース」は古代の英雄の名前、「ペスカトーレ」は拾われた日に先生の奥様が作った昼食です。 ところが誰も彼をユリースとは呼ばず、ペスと呼ぶのでした。 そのうちに先生も、自分が付けた犬の名前を忘れてしまったのです。
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