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ブーツの底が鉄の踏み段に当たる音が、円筒形に積まれた石壁にこだまして、教会の鐘のように響きました。
ランタンが揺れると、石壁に映る影が奇妙に伸び縮みします。
まるで真夏の夜に集った魔物たちが、いっせいに踊っているかのように不気味でした。
先生はその光景を見ることが出来ません。
近ごろすっかり、目が弱くなったのです。
今夜のように風雨が激しいと、雨もりで階段が濡れて、滑りやすくなりました。
足腰の弱った主人が、雨のにおいのする踏み段にさしかかると、ペスは一声吠えて注意します。
「ここは滑りやすいのだね。ありがとう」
ペスは黙って左右に尾を振りました。
村から灯台へ続く道の、灌漑用水路に架かる橋のたもとで拾われたのは十年前のことです。
彼はまだ、子犬でした。
今は分別もある大人で、立派な灯台守の助手なので、仕事中はむやみに吠えたりしないのです。
「雨もりがひどくなって来たようだ。私と共に終わりを迎える時が近いのだな」
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