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先生は見えない目を足元に落としました。
思わずもれた溜息が、塔にひびく風鳴りのすき間をついてペスの耳に届きます。
ペスは長い鼻を上げ、ひげを風に揺らしながら、黒く澄んだ瞳で周囲の壁をさぐりました。
しばらくすると2度、短く吠えます。
パラディ先生が足を止めるのを確認したペスは、後ろ足で立ち上がり石壁を引っかきます。
「おやおや、そこに何か良いものでもあるのかな」
先生は右手を目の高さまで上げ、壁にふれました。
硬い石に深々と文字が刻まれています。
つづられた文字を指先でなぞると、彫り込まれた言葉が頭の中で声となりました。
「先生! オレ、大工になったよ。 ―― マルク」
喧嘩早くて手がつけられない、村一番の暴れ者と呼ばれた教え子の顔が、15年の時を越えてよみがえります。
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