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必死にマリアのお腹をおさえて血を止めようとしている。青くんが抱きすがり、マリアの右手が弱々しくその腕をつかんでいた。
「あ、青くん、ごめん、ね」
「きり、さ」
青くんは何か言おうとして口をつぐんだ。さとったのだろう。彼女は最後の言葉を伝えようとしていた。
「いまの、わたし、すご、く、しあわせ」
「きりさわ、きりさわ、だめだよ、なんで」
マリアの力が抜けていく。青くんが離さないように強く胸に抱きこむ。
おびただしい血が広がっている。一突きだったといえ、刺された場所が悪かったのだろう。
「なんで、だめだよ、俺、言おうって」
僕の視界もにじんで見えなくなってくる。ちょっとでもちょっとでもと腕を動かそうとするが、もう動けない。
「俺、俺、まだ、梨花って、言えてない」
ふつりと意識が切れる。
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