マリア

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 二人が歩き出したので後を追ってついていく。青くんはどことなく緊張してそわそわしていて、おそらく誕生日プレゼントをまだ渡せていないのだろう。マリアはそれをわかっていて、ニコニコしながら青くんの行動を待っているように見えた。こうして自分のために緊張して頭をいっぱいにしてくれることを喜んでいる気がした。マリアがカフェを指さして、青くんがうなずき立ち止まった。  二人のちょっとだけあいた隙間の向こう、人混みの中から黒いコートの人物が歩み寄ってくる。黒い服なんて珍しくはなく、こんな鮮やかな街にさえ溶け込んでいる。歩く速さが変わらないまま、通り過ぎるような感覚でマリアに近づき軽くぶつかって過ぎ去った。 「桐澤?」  マリアがお腹をおさえてその場に沈み込む。青くんが名前を呼びながらしゃがみこんで一緒にお腹に手をあてる。二人のまわりで人々が立ち止まり、短い悲鳴があがり、とまどいが生まれる。
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