マリア

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 スマホを取り出して警察の番号をダイヤルしてから、近くにいた若い男の人に預けて僕の代わりに呼んでもらった。僕は小走りで刃物をコートの中にしまいこんだ人物をおいかけて、うしろからつかみかかる。なぎ倒したそいつは目の下に深いクマのある男で、のしかかった僕をみて驚きつつも刃物に手をかけた。僕はちょっとした抵抗をしつつも黒服の男にされるまま刺された。  言葉にならない声をだしながら男は続けて刃物を突きだした。僕の血が彼に流れ落ちているだろう。三度刺して、彼の手は刃物から離れた。そこで僕は自分の腹に刺さったままの刃物の柄をつかみ、切っ先を逆にして刺しかえした。なるべく心臓を狙ったが、正直にいえば僕の手も失血のせいで震えてうまくいったかわからない。相手は驚いた顔のままビクリと痙攣し、やり返してこないから大丈夫だったのだろう。  立ち上がれず、這うようにしてマリアのもとに少しでも近づく。できる限り近いほうがいい。動いちゃだめだと誰かが止めようとしてくるのをふりはらい、血の跡をのこしていった。 「桐澤、桐澤、なあ、すぐ救急車、救急車がくるからさ、起きててよ、頼むよ、目を、目を閉じないで」  青くんはマリアのことしか見えていなかったようで安心する。最後までマリアのそばにいてほしいと、彼女も僕も思っているのだ。
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