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 黒崎さんが言ったことは的を得ていた。  でももう一つ、彼らに会いに来た理由があった。  彼らがまだ一歩も前に進んでいないことは思った通りだった。  二人はまだ白河さんの呪縛に囚われている。  僕はもう教師ではないが、彼らが卒業してからもずっと二人のことが気がかりだった。  その思いは琴音を失ってから、ますます募っていく一方だった。  琴音を失ってやっと僕は神野くんの気持ちが痛いほどにわかった。  言葉にしないまでも、彼が思い詰めていたということ。  自分の目の前で大切な人を失い、後悔でいっぱいになるということを。  こうなる予兆はいくらでもあった。  彼女が生きているうちに自分にできることがたくさんあったのではないか。  なぜ、こんなに近くにいたのに彼女の気持ちに気づこうとしなかったのだろう。  彼女の笑顔に何で安心してしまったのだろう。  それが彼女の心からの笑顔かどうかなんて、少し考えればわかったはずなのに。  彼女を殺したのは僕だ。  自分が一番近くにいたのに、彼女を止められなかった。  これが婚約者なんて、笑わせてくれる。 「琴音を殺したのは僕です」  黒崎さんの表情が歪み、泣きそうな顔になった。  彼女のそんな表情を見たのは初めてだった。  それほどまでに目の前の僕が痛々しい姿をしているのだろうか。 「神野くんなら僕の気持ちがわかるでしょう。 白河さんは本当に事故だったと思っているんですか。 とんだ幸せ者ですね。 白河さんは神野くんのせいで......」 「やめてください。 如月先生」  黒崎さんが遮った。  その声はいつもの冷静沈着な彼女ではなかった。 「白河は自殺した。 本当は心のどこかで気づいていました。 日陰が俺のために必死に隠そうとしているっていうことも」  今までずっと黙っていた神野くんがやっと口を開いた。  淡々と続ける彼を見ながら、やっと自分が言いすぎたことに気がついた。  今までは頭の中でこれ以上はだめだとストップをかけることができていたのに、僕はそれほどまでに余裕がなくなっていたのだろう。
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