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女教師はものの数分で戻ってきた。
もしかしたら、私たちが風邪をひいてはいけないと急いでくれたのかもしれない。
走ってきたのか、肩が大きく上下している。
彼女からタオルを手渡されたので、お礼を言って、服に吸い込んだ水分を拭き取ると、少しはましになった。
それでも、まだ着替えは必要だったので、彼女に案内され、私たちは保健室に行くことになった。
プールから保健室までは少し距離があるようだった。
三人で廊下を歩く道すがら、女教師から、自己紹介を受けたので、私たちも軽く自分の名前を伝える。
彼女は体育の教師で前田ありささんと言った。
世間話を続けるかのように私は尋ねる。
「遺体を発見した時、どんな状況でしたか?」
前田先生は顔を強ばらせた。
恐らく警察相手に下手なことを言えないと、警戒しているのだろう。
「他の先生たちと一緒にプールの様子を見に行ったんです。今日は夕方まで雨が降っていたので、プールの使用はできませんでした。明日プールを使うクラスがあったので、使用できる状態かどうか、確認する必要がありました」
「その時、遺体を発見したんですね」
「驚きました。
まさか、生徒が亡くなっていたなんて」
「亡くなった生徒のことはご存知でしたか?」
「はい。体育の授業を受け持っていた生徒の一人だったので。
普通の生徒でした。
明るくて友達が多い子という印象です。
授業は真面目に受けていましたし、特に問題があるようには見えなかったんですけども......」
「そうですか」
私が相槌を打ったところで、タイミング良く保健室に到着した。
前田先生が着替えを取りに行っている間、私たちは保健室の前で待たされた。
今まで黙っていた神野は彼女がいなくなったのを確認すると、溜め息を吐いた。
「まさか、卒業してからも高校のジャージを着るなんて思わなかった」
「制服よりはましじゃない?」
「まあ、そうだけど」
そう言い終わるか言い終わらないかのところで、目の前のドアが開いて、前田先生が顔を覗かせた。
手にはジャージを持っている。
彼女は私たちの会話が聞こえてしまったようで、申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんなさい。着替えがこれしかないもので」
「いえ、いいんです。
無理を言ったのは、こちらですから。
洗って、明日返しますね」
聞こえてしまった手前、少し気まずい。
これも、神野が余計なことを言うからだ。
私はよそ行きの笑顔を取り付けながら、内心では、神野を思いっきり睨みつけたい衝動に駆られていた。
「予備のものなので、返すのはいつでも大丈夫です」
にこやかにそう言う彼女に神野と二人でお礼を言うと、前田先生はより一層微笑んだ。
初めて見たときから思っていたが、彼女は私たちと年が近いのかもしれない。
あどけない笑顔を見て、ますますそう思ったが、初対面なのに年齢を聞くのは失礼だと思い、なかなか聞けなかった。
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