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「神野いる?」  私が帰り支度をしていた時だった。  声がした方を見ると、自称神野の親友である雨宮くんがいた。  自称と言うのは、雨宮くんが親友だと言っているだけで、神野は頑なに否定しているからだ。  何でも二人は中学から高校までずっと同じクラスだったらしい。  最近では、否定するのもだんだん面倒になったのか、雨宮くんが親友という単語を出す度に、神野にはいはいと軽くあしらわれているのを見かけるようになった。  そんなどこか不思議な関係の二人とは、私が日向がいなくなってすぐ、彼女が通っていた高校に編入したため、三年間、同じクラスだった。  私たち三人は、高校を卒業後、警察学校へ通い、晴れて警察官になった。  今は私と神野は未成年者犯罪対策課で彼は生活安全課だが、同じ警視庁で勤務していることもあり、時々彼は神野の様子を見にやって来た。 「今日は非番だけど」 「そういえば、そうだった。 つい、いつもの癖で」  頭をかきながら、笑っている姿は、明るくお調子者の彼によく似合っていた。  その動作がある一点を見つめて、止まる。 「.....あれ?そのパーカーは? 神野のだよね?」  目ざとい彼の視線に慌てて、パーカーを後ろに隠そうとしたが、遅かった。  さっき、保健室でジャージを借りたときに返せば良かったのに、そのまま忘れていたのだ。  家に帰ってから、返せばいいという安心感もあったからかもしれない。  事件の捜査で泊まり込みになることも多かったので、私は職場に着替えを置いていたこともあり、借りたジャージから既にいつものスーツへ着替えていた。 「これはさっき、現場で神野と偶然居合わせて、借りたの」 「ふーん。偶然ねー」  雨宮くんのにやにやした視線が再び神野のパーカーに注がれる。  彼は周りを見渡して、誰をいないことを確認すると、私をじっと見つめた。 「黒崎さんは神野の気持ちがわかってるんだよね? 同棲してるのに、まだ付き合ってないの?」  私はすぐに言い返そうとしたが、私も雨宮くんと同様、もう一度、辺りを見渡して、誰もいないことを確認した。  そもそも、ここにいるはずの金堂さんは、先程、捜査一課の刑事に呼び出され、私に先に帰っててと言い残して行ってしまった。  その他にこんな時間に警視庁の隅の方にあるこの部署にやって来る人はそうそういないが、念には念をだ。  案の定、私たち以外の人の気配は全く感じなかったので、ほっと息をつく。 「同棲じゃなくて、同居ね」 「またまた、そんな風に言っちゃって。 黒崎さんもそろそろ素直になりなよ」 「何回も言ってるけど、私たちはそんなんじゃないって言ってるでしょ。 私もう帰るから。じゃあね」 「えー。一緒に帰ろうよ」  私は雨宮くんを無視して、まとめた荷物を全部鞄に突っ込んだ。  鞄を肩にかけ、歩き始める。  毎日こんな調子だ。たまったもんじゃない。  なぜ、神野は私と一緒に住んでいることを雨宮くんに言ってしまったのだろうか。  こうやって、冷やかされるのは、目に見えていたはずなのに。
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