第四章 人、深林を知らず

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「これ午前じゃなくて午後だよねー、ああもう何でこんな時に限って寝坊するかな」  起きたら14時だった。絶望の起床である。時計のズレを期待して飛びついたのも空しく、スマートフォンも14時を表示していた。県立図書館は17時までだったはずだ。急いで支度をして自転車に飛び乗った。 なんとか図書館にすべりこみ、図鑑を何冊か借りた。帰りの自転車をこぎながら「花」について考える。 祖父がくれたというのだから町工場からの帰りに摘んだか買ってきたんだろう。工場の裏山に生えてた可能性もある。あとは稲っぽい形とも言っていた。稲っぽい花って想像がつかない。カラフルなススキを思い浮かべたが、あまりピンとこない。ただまあ、カラフルなススキが一本だけで生えてたら、めちゃくちゃ目立つだろうし、人にも見せびらかしたくなると思う。 カラフルなススキを手に持った若き日の祖父を想像しているうちに、家に到着した。 「稲っぽい」「一輪だけ」、あともう一つは ごとっという音がして目が覚めた。床に落ちたノートを拾う。図鑑を見ているうちに寝てしまったらしい。 予想以上にイネ科の植物が多い。もう夜も深かった。夜中の静けさはどこか深く、怖く感じた。 重い瞼をこすりながら、私は図鑑のページをそっとめくった。
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