序章 連理の花を待ちたるが如し

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「ただいま、ユキさん見て見て。今日先輩から珍しい花を頂いたんだ」 「おかえりなさい、大介さん。今日はお早いのね」 「うん、ユキさんに早く見てもらいたくてさ、急いで仕事切り上げてきたんだ。これ、一生に一度見られるかどうかの珍しい花なんだって。なんだか稲みたいな形だからあんまり花っぽくみえないかもしれないけど」 「まあ、そんなに珍しいお花なの。確かに稲のような不思議な形ね。今、花瓶を持ってくるわね。ところでこのお花の名前を聞いていなかったわ、なんていう名前なのかしら。」 「ああ、えっと確か――」 ―――懐かしいあの人を夢に見た。色褪せずに残る在りし日を。 数十年前のことを夢に見た理由なんて、カレンダーを見ずともわかる。甘い記憶にずっと浸っていたい気分だがそういう訳にもいかない。  起き掛けのせいか鉛のように重たい体を無理に起こす。私も随分と年を取った。今日こそ、今年こそという淡い思いを胸に、私は外に出かける準備を始めた。
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