第一章 比翼の古巣、片翼の鳥

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第一章 比翼の古巣、片翼の鳥

 祖母が足を痛めたらしい。源さんの山を散策中にうっかりこけてしまったそうだ。大した怪我ではないのだが、治るまでに二週間ほどかかると聞いた。少し心配だったので、私は祖母の家にまで様子を見に行くことにした。  「おばあちゃん、こんにちはー。あれ、いないのかな」   玄関の引き戸を開けたが返事が無い。鍵は開いていたし怪我もしているので留守ではないと思う。もしかすると声が小さくて聞こえなかったのかもしれない。そう思ってもう一度呼びかけてみようとした時、裏庭から祖母の声が聞こえた。 「ごめんね、ちーちゃん。うとうとしてたから返事が遅くなっちゃった。」 「平気平気、それより具合はどう」   そう言って私も隣に腰掛ける。日に暖められた縁側はぽかぽかとしていて確かに居眠りしそうになる。 「足はもう大したことないよ。もらった湿布もちゃんと貼ってるし。」 「良かった、元気そうで安心したよ。病院には連れてってもらったんだったよね」 「源太くんが送ってくれてね。迷惑をかけてしまったしお礼をしなきゃ、何がいいだろうねえ」  源太くん、つまり源さんは、町はずれで小さな町工場を営んでいる人だ。源さんの父である先代が現役の時、私の祖父がそこで働いていたそうだ。祖父が若くして亡くなった後、祖母は何かとお世話になったらしく今でも付き合いが続いている。「源太くん」と呼ぶのは当時、源さんが少年だった頃の名残らしい。    残念ながら私は先代にも祖父にも面識はないが、その分源さんには可愛がってもらった。お菓子や手作りの木彫り細工もくれたこともある。工場の裏山でぜんまいや筍を取ったり、紅葉狩りをさせてもらったりもした。祖母が散策していた山もその裏山だ。かなり昔から祖母は健康のためという理由で山に通っていた。よく慣れた山道だったが、ぬかるみに気づかず転んでしまったらしい。 「お礼かあ、源さんお酒大好きだしビールとか日本酒とか。父さんにも相談してみるね。あ、好きなもので思い出した。お見舞いにおばあちゃんの好物の黒糖プリン買ってきたんだった。今スプーン出すね」  
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