第一章 比翼の古巣、片翼の鳥

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 いそいそとプリンを取りだそうとすると、祖母はどこか困ったような表情でやんわりと制してきた。 「今はいいよ。久しぶりに病院にいったら、ついでだからってあちこち検査されて疲れちゃった。やっぱり何十年経っても病院は好きになれないねえ」 「私も注射は嫌いかも、じゃあこのプリン冷蔵庫に入れてくるね」  暑い風が吹く。梅雨入りすればもう少し涼しくなるかもしれない。  台所から戻って先ほどと同じように隣に腰掛ける。祖母は庭の一画にしつらえた盆栽の棚を見つめている。やけに熱心に見ているので声をかけるのをためらった。私は小さく息を吐き、空を見上げた。もうじき梅雨になるとは思えないほどの晴れた空だ。日の光が斜めに差し込んでいた。 「ちーちゃんは、『ウドンゲノハナ』って知ってるかい」  ふいに祖母が問いかけてきた。その視線はまっすぐに盆栽に向けられたままだ。  夕方に差し掛かってぬるくなってきた空気は私と彼女をゆっくりと包み込んだ。
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