第二章 三千の一花、碧空に尽き

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第二章 三千の一花、碧空に尽き

「ウドンゲ」、不思議な響きだ。「ハナ」というからには植物だと思う。何だろう、毛の生えたうどんから咲いた花とか。のどごしが悪そうだし、食べ辛そう。そもそもうどんは小麦から作られていたはずだ。 「うどんは小麦で作られていたと思うんだけど、うどんに花って咲いたっけ」 「いや、うどんじゃなくて、『優曇華』って書く花のこと。うどんとは関係ないよ」 「うーん、聞いたことも漢字を見たこともないや。どんな花なの」 「とにかく珍しいお花でね、三千年に一度しか咲かないんだって」 「三千年って紀元前行っちゃうじゃん、珍しいというか咲いたら奇跡だよ」  三千年。長すぎて想像もつかない。呆気にとられている私を置いて祖母は話を続けた。 「昔、大介さんが、ああ、ちーちゃんのおじいちゃんがね、亡くなる少し前にそのお花をくれたんだよ」 「えっ、おじいちゃんそんな貴重な花くれたの。うわすっごいね、どんな花だった、やっぱり綺麗だった」 「なんだか不思議な花でね、稲みたいな形をしていたよ。綺麗というか面白い花だった」  でもねえ、と祖母はため息をついた。空を仰ぐようにして言った。 「でもねえ、そんな花実在しないんだ。『優曇華の花』は架空の花、仏教の伝説上の花なんだよ。」 「架空の花って、だっておじいちゃんはその花をくれたんでしょ」 「『優曇華』って名前で呼ばれているものはあった。イチジクの一種とか芭蕉、あとはカゲロウの卵も。でもどれもあの人がくれた花と違ったんだ。強いていうならカゲロウの卵は似てたけど、虫の卵をもらったわけじゃないからね」 「……じゃあ、おじいちゃんがくれたのは一体何だったの」 「さて、なんだったんだろうね。でもそれが、あの人のくれた最初で最後の一輪だったんだ。もう見れないにしてもそこだけは変わらない。ああ、もう日が落ちちゃったね。長いあいだ引き留めてごめんね。あんまり遅くなると危ないから気をつけて帰るんだよ」  祖母はそう言い切ると、ゆっくりと立ち上がろうとした。手を貸すと小さく礼を言い、部屋に戻ろうとする。
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