それをデートとは言わない

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 カフェから出た俺たちは、蘭が行きたいと言っていた場所に向かって遊園地の中を歩いていた。  なかなか進まないのは、双子が小さな子供が遊ぶような遊具にいちいち捕まり、寄り道ばかりしているせいだと思う。  途中見かけたコーヒーカップで、男二人がニコニコ笑いながらゆっくり回っているのを見たときは、寒気がした。  男がコーヒーカップに乗ってまずすることと言ったら、全力で回して同乗者を酔わせることだろう。  女と乗っている訳でもあるまいし、笑いながらゆっくり回すのはどうかと思う。  そんなのを見て、双子があれ乗りたいと言い出した。  断ろうとしたのだが、蘭に押し込められてしまい、双子と俺と葵というなんとも奇妙な組み合わせで乗ることになったのだ。  勿論俺は全力で回した。  そのお陰で双子はヘロヘロになり、暫くの間大人しかったので、成功したとも言える。  しかし、葵はまったく酔った様子は見せなかったのだ。  いつもとまったく同じ表情でつまらなさそうに座っていた。  何をやったらあの表情が変化するかな。  まあ、あれだけ回してまったく酔わなかったのは俺も同じなので、人のことを言えないかもしれないが。  別のカップに乗っていた、双子のお守りを押し付けてきた3人も降りてきた。  俺の回すカップに乗っていた、吐きそうな程真っ青な双子を目にして、一瞬同情的な視線を向けたあと、何事もなかったように歩きはじめた。  暫くは双子も大人しかったので、随分と楽だった上に速く進んだのでよかったかもしれない。  そしてその後、予定通り蘭が決めた場所に向かった。  蘭が決めた場所など嫌な予感しかしないのだが、他に行きたい所もないので、反論することなくついていくことにした。 「みんな、ここ入ろう!」  そう言って蘭が指差した場所は、おどろおどろしい建物だった。  ふわふわした雰囲気の遊園地に似合わない、不気味な建物。  ここがなんの建物なのか。見ればわかる。  ここはお化け屋敷だ。  なるほど。蘭が行きたがる理由がわかった。  カップルには定番の場所だ。  もっとも、蘭の場合はその観察なのだろうが。  にっこにこの蘭を前に、俺は溜め息をついた。
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