それをデートとは言わない

11/25
前へ
/182ページ
次へ
 後ろから、何かが走って来る気配がした。  俺より少し遅れて会計が気付き、後ろを振り返った。  その動きに反応して、蘭と黒亜も異変に気がついたようだった。  そしてそいつ、ゾンビのようなやつは叫び声をあげ、走るペースを上げた。  蘭と黒亜は壊れた人形のように、ぎぎぎっと首を後ろに向ける。 「……ひっ、」 「うわあぁぁー!」  蘭が短い悲鳴をあげ、黒亜はそのまま走り出してしまった。  アレを追わないと絶対に迷子になって出てこれなくなる。  だが、蘭は恐怖で固まってしまっている。  仕方なく蘭の腕を振りほどいた。 「……ちっ、俺は黒亜を追う。お前らは自力で出てきやがれ。」  そう蘭と会計に言うと、返事を待たずに走り出す。  あいつ何も考えずにただひたすら走ってるから、速い。追い付けない程ではないけど。  それにしても、高校生にもなって仮装した人間にビビって迷子になるとか、そんな傍迷惑なことしないで欲しい。  そしてそれに巻き込まないで欲しい。  すぐに俺と黒亜の距離は縮まった。  黒亜に追い付き、その手首を強く握る。  何が起こっているのかわからないのか、俺を見て呆けている。 「勝手に一人で走り出すな。お前が迷子になって困るのは俺たちだ。」 「……っ!ご、ごめん!」  やっと我に帰ったようだ。  だがまだ体は震えているし、目はいつ涙が溢れ落ちてもおかしくないくらい潤んでいる。  いくらなんでもこれは怖がりすぎじゃないか?  蘭でもここまで震えていなかった。  もしかして、何かトラウマでもあるのだろうか。 「ほら、落ち着けって。俺は側にいるから。」  あまりにも怯えているので、そっと黒亜を抱き寄せる。  なんだか子犬のようだ。  暫くそのままにしていると、段々と震えが収まってくる。  全く、何故お化け屋敷に入ったんだ。  こんな怖がり方をするなら、絶対に入るべきではなかった。  それくらい本人が一番わかっているだろうに。  トラウマがあるなら、こんな事態に陥る前に断るべきだった。  こうなってくると、白亜の方も心配になってくる。  白亜と黒亜は似ている。  同じ人間ではないことはわかっているのだが、黒亜がこうでは白亜もこうなっている可能性を捨てきれない。  とりあえず、こいつをここから出してやらないと。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1530人が本棚に入れています
本棚に追加