それをデートとは言わない

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 トントン、と肩をつつかれた。  犯人は、隣に座っていた葵だ。 「どうしたの?」 「それ、食べたい」  葵は俺の食べているハンバーガーを指してそう言った。 「別にいいけど」  渡そうとすると、それを待たずに葵は俺のハンバーガーにかじりついた。 「わあっ、ちょっと待てよ」  無言で口を動かしている葵に俺はハァと溜め息をついた。 「お前のも頂戴」 「いいよ」  葵は俺の口元に自分のハンバーガーを押し付けた。  ハンバーガーを渡してくれれば自分で食べるのに。  そう思ったが口には出さずにハンバーガーにかじりついた。  あ、やばい。  周りの視線が俺たちに集まっていることに気がついた。  ここはフードコートのような形になっているので、学園生は他にもいるのだ。  生徒の認識では、葵はこんなことはあまりしないクールなやつだ。  この意外性にチワワが悶えている。 「蘭ちゃん、何連写してるの」  そう会計の呟く声が聞こえて、ばっと蘭の方を向く。  蘭はこちらに向かってスマホを構えていた。 「ふぇ!?し、してないよ!?」  今の反応は自白しているようなものだ。  俺は笑顔で蘭に語りかける。 「蘭、その写真消去しないとスマホごと破壊するよ?」 「ま、待って!売らないからスマホ破壊はやめて!」  売るつもりだったのかよっ!  だが売らないからと言ってそこにその写真が存在していい理由にはならない。 「どちらにせよ、その写真消さなきゃスマホ破壊するよ?おまけにPCのデータも消去してあげようか?それともお前の部屋にある漫画を焼却処分する方がいい?」  言葉を重ねていくごとに、蘭の顔が青くなっていく。 「わ、わかった!消すからそれだけは本当にやめて!」  そう言うと高速で写真を消去していく。  一体どれだけ撮ったんだよ。連写したからか。  蘭からスマホを奪い、写真のデータが完全に無くなっていることを確認し、返した。  蘭はスマホが破壊されずに戻ってきたことに安堵したようだった。  一連の流れをぼーっと見ていた奴等は、各々に食事を再開した。  蘭のデータは消せたが、おそらく他にも写真を撮った奴等がいるだろうと思うと、憂鬱になった。
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