それをデートとは言わない

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 * 「どうだった?楽しめた??」  観覧車から降りるとすぐにニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべた蘭が寄って来た。  いつの間に復活したんだな。  というか、この表情からして俺と葵を二人で乗るように仕向けたのは十中八九こいつの仕業だろう。  あの時双子に耳打ちしたのはそのためだったのか。 「そうだな。それよりお前はもう大丈夫なのか?」  あっさりと返答した俺に対して、期待していた反応と違ったのか、若干不満そうな顔をした。 「僕はもう大丈夫だよ。ねぇ観覧車で何もなかったの?ちょっとドキドキしたとかでも」  何もなかったか、と聞かれて思い浮かんだのは俺を綺麗だと言った葵の顔だ。  いつもと少し違う様子の顔。  少しだけ雰囲気が柔らかかった気がする。  だがすぐに思考を振り払う。  これを蘭に悟らせてはいけない。  蘭に脳内でどのように曲解されるかわからないからだ。 「男二人で観覧車に乗ってもドキドキなんてするわけないだろ。」 「まあ、わかってはいたけどちょっと落ち込むね。」  けろりとした顔でそう言った。  わざわざ双子に手を回したのに意外とあっさりしているものだ。  というか同じ部屋で一年も一緒に生活しているのに今更何が起こる訳もないだろう。 「もうそろそろ時間です。行きますよ。」  そう声をかけたのは侑李だった。  あいつも復活したんだな。 「楽しかったね!」 「また来たいね!」  双子はそう言うが、俺はもう来たくないな。  少なくともこのメンバーでは。  それに次来る時は貸し切りということはないだろう。  あの人混みにこのお坊っちゃんたちが耐えられるのか疑問だ。  始めて来たからと言ってこれが当たり前だと思っていたら痛い目にあうぞ。  可能性があるとしたら来年の新入生歓迎会か。  二年連続で同じことをするかどうかはわからないが、今回の評判がよく、問題が起こっていなかったらあるかもしれない。   疲れたが、転校生のせいで心労の溜まっていた俺にはいい気分転換となった。  また明日から慌ただしい学園生活に戻らなければならないことが億劫だ。 「綺麗……だな。」  誰にも届かない小さな言葉は、夕日に染まったオレンジの空に吸い込まれて消えていった。
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