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* * *
満月が爛々と輝く夜。
小さな悲鳴が、ソレの耳に届いた。
ソレだからこそ聞き取れた程の小さな悲鳴。
それは、襲われる者にとって最大の幸運であり、襲う者にとって最大の不運であった。
路地の奥では、一人の倒れた女の周りを五人の男が囲んでいた。
女は、これから自らの身に起こるであろう事に対する恐怖で震え、男はその欲望を隠さず女へとぶつけようとしていた。
しかし、一つの声がそれを遮った。
「何をしている?」
男とも女ともつかぬ声。
ただわかるのは、美しいということだけ。
その声に反応した男たちが焦って振り返り、女は一筋の希望にすがろうとそちらに目を向ける。
後ろに立っていたのは、フードを目深に被った人物であった。
体格がわかりにくい服を着ていても、華奢だと言うことはわかった。
その姿を見て、男は安堵し女は落胆する。
「女……か?」
「なんだ。おい、お前も混ざりたいのか?」
「その前にフードを取れよ。」
気色の悪い笑みを浮かべた男からの問いに、返事は帰って来なかった。
その事に男たちは苛立ちを滲ませる。
「おい!聞こえてんだろ!」
一人がそういいながらその人物の元へ向かって行く。
しかし男が触れる直前、男は地面に倒れていた。
一瞬、男たちには何が起きているのかわからなかった。
一人が、悲鳴も上げずに一瞬で崩れ落ちたのだから。
状況を理解した男の顔が驚愕に染まる。
しかし、次の言葉を紡ぐ前に一人、また一人と倒れていく。
残る最後の一人に、その人物は視線を向けた。
どこまでも冷たい、射ぬくような視線に、男は底知れぬ恐怖を感じた。
こちらに歩いて来る人物のフードがはらりと落ちた。
そこから現れた美貌に、男も女も、状況を忘れて息を飲んだ。
目を奪われている隙に、男との距離はゼロになっていた。
意識を失う瞬間、男は気がついた。
目の前の人物が誰なのかに。
噂は真実だったことに。
「実在してたのかよ───……吸血鬼」
その言葉を最後に、男の意識は途切れた。
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