日常と混乱の兆し

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「いい?侑李、転校生が来たら門は開けなくていいよ。多分門を飛び越えてくるから。で、作り笑いのレベルは下げてね?きっと転校生が見破ってくれるから。そしたら気に入りましたって言って転校生にキスしてね?」 「キスだけは断る。」 「えー」 「それだけはマジでムリ。」 「わかったよ。でもそれ以外ならちゃんと出来るよね?」 「本当はやりたくな────」 「出来るよね?」 「……わかった。」  あ、今侑李が自分で退路を絶った。  あと、わかってると思うけど侑李はノンケ。今ここにいる4人は全員(腐男子という特殊な人種はいるが)ノンケ。  だから気が合ってよく集まるのだ。葵は微妙だが。  こんなことをしていたら話が進まない。まだ最重要事項を言っていないのだ。 「お前らそろそろいいか?」  まだ言い争いを続けていた侑李と蘭にストップをかける。 「あぁ。ただ転校生が来るってだけでお前が俺をわざわざビーフシチューで釣ってまで呼び出す訳ないもんな。」   さすが侑李だ。伊達に幼馴染みやってない。 「……転校生の苗字が日比谷なんだ。」  それを聞いた途端に侑李は顔を強張らせる。蘭はなんのことかわからないようで困惑顔だ。終始興味の無さそうにしていた葵はこちらにも興味を示さない。 「……日比谷って、あの?」  侑李の問いに俺はこくりと頷く。  その途端侑李は目を伏せてなにか考えこむ。……あの事を思い出しているのだろうか。 「……ねぇ、その日比谷っていうのがどうかしたの?」  蘭がさっきとはうってかわって遠慮がちに聞いてくる。  蘭には変装のことは話してあるが、その他のことについては話していない。 「ちょっと色々あってな。」  俺は曖昧に答える。そこから今は俺が話さないことを感じ取ったのだろう。そういったことを深く詮索しないやつだとわかっていたから今この場に呼んだのだ。 「また、教えてくれると嬉しいかな。」  そう言って微笑む。教えられる時が来るのか。少なくともまだしばらくは来ないだろうな。  仕方ないと簡単に諦めてしまう自分に溜め息をつく。  ────────偽ることが当たり前になってしまったからか…………。
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