日常と混乱の兆し

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 そこに映ったのは幼い頃からの付き合いの、見慣れた俺。  髪は、新雪のように雑じり気のない白。所謂純白というやつだ。睫毛や眉毛も同様。    瞳はそれと対照的な真紅。  正に宝石のように無機質な瞳。  だけどそれは美しいという意味ではない。作り物めいているということだ。  人形のような顔立ちがそれに拍車をかけている。  何を考えているのかわからない、温度を感じない、などはよく言われたものだ。  この姿を見たら学園の生徒たちはどう思うだろうか。俺を見て頬を染めてるやつの中で、一体何人がこの姿を認めてくれるだろうか。  多分みんな言うことは同じ。  ─────気持ち悪い  ─────化け物  ─────近寄らないで  言われ慣れた言葉だ。  俺を見てそれを言わなかった人など、両手の指で数えれば足りてしまう。  変装している時は、そんな言葉を言われない。  それがとても嬉しい。  …………所詮、自分で作り上げた虚像を認められただけだというのに。  俺はリビングルームに戻り、3人を見て目を細める。  未だに言い争いを続けながら皿洗いをする侑李と蘭。  その声が聞こえないかのように一人黙々と作業を続ける葵。 「あ、五十鈴、おかえり!」  変装をといても全く変わらない態度で声をかけてくる蘭。初めて変装をといた時からずっとそうだった。  葵については、それ自体に全く関心がない。そんなことはどうでもいいと言うように。  ここは本当に居心地がいい。  生まれて初めて、自分の居場所が感じられるこの場所が。  たとえこの学園を卒業すれば、蜃気楼のように儚く消え去るものだったとしても。  あと2年もない高校生活。いや、もしかしたらもっと少なくなってしまうかもしれない。  だからせめてそれまでは、その短い期間だけは、自分の居場所を守っていたい。  偽りの笑顔を引き剥がして、笑顔を作らずとも笑えるこの場所を失いたくない。  それが終わったらもうなにも、望まないから。
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