日常と混乱の兆し

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「五十鈴、これ持って帰っていいか?」 そう言った侑李の前には複数のおかずの入ったタッパー。  俺と侑李の食事の好みは似ている。  中には俺の秘蔵のものまで……。  隠しておいたはずなのに一体どうやって見つけたのやら。 「これはダメ。変わりにこれやるよ。」 「え、それ一番欲しかったやつなんだけど。」 「今度作っといてやるよ。」 「それ言ったの何回目?」 「覚えてねぇな。」 「言われた記憶はあるけど実行してくれた記憶がない。」 「面倒だし。」 「そんな理由でやめて欲しくないんだけど。」 「じゃあ自分で作れよ。」 「無理」 「なら我慢するんだな。」  いいじゃないか。たまに勝手に料理がいくつかなくなってるの、俺気づいてんだからな。  盗人が何を言う。  潔く諦めたようで、カバンに詰め込み始めた。  まあ、俺の料理がなかったらお前餓死するもんな。 「あ、蘭。まさかとは思うけどカメラとか仕掛けてないよね?」  侑李と同じく料理を詰めていた蘭がこちらを振り向く。  あれ、笑顔が真っ黒なんですけど。 「カメラは仕掛けてないよ。」  じゃあ他の何かは仕掛けてあるということか。全力で部屋を捜索しなければ。  後で捜索したところ、盗聴器が発見されました。  もうこれ完全に犯罪だろ。   「じゃあな。」 「五十鈴、また明日ね!」 「おう。」  さあ、俺も部屋に戻りますか。  葵ならとっくに帰ったよ。今はもう夢の中。いや、葵は夢なんて見ないか。あいつが夢見てるとこなんて想像できんわ。  “にゃお”  扉を開けた瞬間聞こえた子猫の声。  紅い瞳に白い毛。首もとに揺れる鈴。俺と同じ色の子猫、ルナだ。  俺は部屋で猫を飼っている。一般寮ではペット禁止なんだけど、どうせ防音なので見られなければ見つからない。  だけど昼は共有スペースに掃除の業者が入るので、部屋にいてもらっているのだ。  勿論、葵には許可を取ってある。あいつはなんだかんだ言って猫は嫌いじゃないので。ルナもなついてるし。  俺は足にすり寄ってくる白いもこもこを抱き上げる。  かわいい。本当にかわいい。俺の天使。今日一日の疲れが取れる。堕天使と大違いだ。  ルナを抱いたままベッドに転がる。  疲れた。昼はずっと寝ていたにもかかわらず、俺は気づいたら眠りに落ちていた。 
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