夜空の花と林檎飴

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 *  夏祭り当日である今日は授業は午前中で終了し、18時開始の祭りに向けて準備をする。  屋台を用意する生徒もいるし、浴衣を着る生徒もいる。  生徒会や風紀委員は最終確認などでバタバタと忙しく動いている。  祭りの開始自体は18時だが、俺としては暗くなってから出かけたいので蘭たちと約束しているのは19時だ。  俺は浴衣など持っていないので、制服での参加だ。  侑李たちは去年浴衣を着ていた。  浴衣を着ている生徒が圧倒的に多くて制服の俺は浮いていた。  そのため午前中に授業が終わっても何もやることがないので、寮でごろごろ過ごしている。 「葵ー、なんかお土産とかいる?」 「いらない」 「食べものとかは?」 「いらない」 「そもそもお前どんな食べものが売ってるのか知ってる?」 「知らない」  葵は生まれてこのかた祭りなんて参加したこともないだろうからなぁ。  ちなみにこの夏祭りは一般的な縁日で売られているような食べものと、縁日で売るには0が多すぎる料理が売られている。  前者は物珍しさで庶民の食べものを食べたいお坊ちゃんのために、後者は庶民のものなんて食べたくない、親に禁止されている、というお坊ちゃんのためにだ。  それでも衛生面などは一般的な縁日の数倍は気を配られているが。 「仕方ない。俺がいいの選んで買ってきてやるよ」 「いらないって言ってるじゃん」  鬱陶しそうな顔で葵がそう言う。 「買ってきたらなんだかんだで食べてくれるくせに」  そう言ってやったらとうとう返事もしなくなった。  それが肯定の意を示しているようで、思わずクスリと笑ってしまう。  不良に恐れられる不良なんて言われるようなやつだけど、こういう所はかわいいと思ってしまうのはおかしいのだろうか。 「帰ってくんの遅くなるかもしれないから、晩飯作っとくな」  返事はなかったが、俺は台所に立って料理を始めた。  晩飯はここで食べるつもりだが万が一何かあって遅れてしまった時のためになにか作っておく。  数種類の料理を作り終えた時には、もういい時間になっていた。  そろそろ侑李と蘭との待ち合わせの時間になる。 「じゃあ行ってくる」 「……ん」  短い言葉だが、返事をしてくれただけいい。  俺はそう言って蘭たちとの集合場所へと向かった。  *
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