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葵のパーカーについた血や泥を大方落とし終えた俺は、パーカーを洗濯機に放り込み、救急箱の準備をしていた。
怪我をしていると言っても、ここらで葵より強い奴なんて滅多にいないので、擦り傷程度なのだろうが。
それでも手当てできるならしておいた方がいい。
それくらい自分でやってくれると嬉しいんだけど。
葵は痛みに鈍感だ。周り(と言っても興味を持ったことだけたが)の変化にはとても敏感なのに、自分のことはまるで気にしない。
自分自身に興味も関心もないと言うように。
もう少し自分のことを考えてくれるといいんだけどな。
それが俺の生活の改善に繋がるから。
葵は喜怒哀楽の感情に乏しい。表情もほとんど動かない。
少なくとも俺は、葵が笑ったりするのを見たことがない。イライラしているのは見たことがあっても、怒っているのは見たことがない。
纏っている空気が冷たいのは、多分そのせいだ。
別に無理矢理笑えとかは言わないけど。
むしろそんなことになったら気持ち悪いけど。
もう少し感情の起伏があってもいいんじゃないかなぁとは思う。
まあ、そんなことを思ったところで葵の問題なんだから、俺が介入して良くしようなんて到底思えないんだけど。
そんなことをしたってただの自己満足の偽善でしかない。
それが葵にとっていいことなのかは俺には判断がつかないのだから。
「洗ってくれた?」
「あぁ。」
脱衣場から出てきた葵がそう言う。
風呂上がりの髪からは水が滴り落ち、頬はいつもより少しだけ上気している。
そのせいか、いつも以上に色気が漂っている。
つくづくイケメンだと思う。氷のように冷たいのに、それさえも格好良いに変換されるのはイケメンの特権だろう。
そして葵は180越えの長身なのだ。羨ましい。
俺だって170㎝は一応あるのだ。日本では平均的な身長なのに、この学園ではチビ扱いだ。
俺がチビなのではない。この学園の平均身長が異常なだけだ。
俺はまだ成長期があることを信じている。
「手当てするからこっち来い。」
三人掛けのソファから葵を手招きする。
葵が座ったところで手当てを開始する。
やはり傷は少ないし、擦り傷ばかり。さすが葵だ。
慣れているので手早く手当てを終えた。
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