宇宙人襲来

9/19
前へ
/182ページ
次へ
「葵、行くぞ。」 「ん。」  部屋を出て走りだす。  ここは寮も校舎も無駄に広いから、寮生活のくせに通学に時間がかかる。  本当に金持ちを恨みたくなる。  走りだしてからふと気がつく。  遅刻で慌てていたためすっかり忘れていたが、昨日の晩、寝落ちした俺を葵が部屋まで運んでくれたんだよな。  不法侵入したことは一旦忘れて、お礼を言っていなかった。 「昨日の晩さ、俺を部屋まで運んでくれたの?」 「だって何度呼び掛けても起きないから。」 「ありがとな。」 「いいけど。呼んだら起きてよ。」  無茶言うな。寝てる俺には意識がないんだから。 どうしよもない。  いつもならそんなことはないんだけど、昨日はかなり眠かったからな。  その原因が葵にもあることを理解して欲しいものだ。  やっと校舎に入ったところで葵がふいに立ち止まった。 「どうしたの?」 「すず、俺ちょっと忘れ物した。先に行ってて。」 「?わかった。」  珍しいな。葵が忘れ物なんて。というかいつもは忘れ物なんてしても気にしないだろう。  突然の葵の行動に違和感を覚えたものの、声をかけることなく、もときた道を歩いて帰る葵を見送る。  そしてその数分後。葵が突然道を変えた理由が判明した。 「あーっ!」  突然の大声に俺はビクッと立ち止まる。  声のした方に目を向けると、数メートル先黒いもさもさが俺に向かって指を指していた。  え?なんで?今授業中だよね?制服来てるってことは生徒だよね?なんでこんなとこにいるの?  頭の中に多くの疑問を浮かべながら、その黒いもさもさを凝視する。  黒いもさもさのマリモ頭。底瓶メガネ。  そして俺の頭は、ある最悪の結論に達する。  まさか、 「……転校生?」  思わず呟いてしまったその言葉にマリモはぴくりと反応する。 「そうだ!今日転校してきた日比谷(ヒビヤ)茉央(マオ)だ!茉央って呼べよ!」  そう無駄に大きな声で挨拶してきた黒マリモ、改め日比谷茉央はこちらに近づいてきた。  え、ちょっとなんで来るのかな。  ていうか侑李が案内してるんじゃないの?  なんでこんなとこにいんの?  ここからは理事長室も職員室も教室も遠いよ? 「迷ったんだ!職員室まで案内してくれ!」  ずつうがいたい。
/182ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1532人が本棚に入れています
本棚に追加