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それで、今は新入生歓迎会の鬼と逃げを決めるくじ引きの最中だ。
授業ではないから聞かなくてもいいかと思い、うとうとしていた俺を、くじを引きに行けと蘭が起こしに来たのだ。
このくじで全てが決まる。
新入生歓迎会が地獄になるかどうかが。
「葵、引きに行くぞ。」
同じく寝ていた葵に声をかける。
「……引いてきて。」
それだけ言ってまた眠ってしまった。
これでまた起こしたりすると機嫌が最悪になるので、仕方なく葵の分まで引きに行く。
「蘭はもう引いたのか?」
「うん。引いたよ」
「どっちだった?」
蘭は得意気な笑みを浮かべた。
「鬼だったよ!これで心置きなく萌え観察ができるよ!」
マジか……。
蘭に観察されたら、心置きなく鬼ごっこを楽しむなんて無理だろ。
それは決して俺だけじゃないだろう。
「五十鈴も引いておいでよ」
覚悟を決めてくじ引きの入った箱の前に立つ。
クラス中がこちらを注視しているのがわかる。
俺は箱の中から一枚の紙を取り出す。
誰かが唾を飲み込む音がする。
俺は紙を開いた。
「……逃げ」
蘭の顔が歓喜に染まる。
鬼になったクラスメイトも歓声をあげる。
逆に逃げの生徒の中には意気消沈する者もいた。
うわあぁぁーーーっ!
最悪だっ!
これで新入生歓迎会は地獄となることが決定した。
気分は沈みこむ。
だがまだ葵の分を引かなければならない。
葵を巻き添えにしてしまいたいものだ。
「葵の分も引くね。」
「あぁ、はい、どうぞ。」
クラス委員長にそう告げてもう一度箱に手を突っ込む。
逃げ、こい!
「あぁっ!くそっ!鬼かよ!」
なんで俺だけ逃げなんだ!
「なぁ、委員長。」
「はい?」
「俺と葵の交換していい?」
「ダメです。」
「お願い。」
「っ、ダメです。」
チッ上目遣いでもダメか。
「ダメだよ五十鈴。五十鈴がそんな風に頼んだら本当に変わっちゃうかもしれないじゃん」
そんなにニヤニヤしながら言われても他意があるとしか思えないだろ、蘭。
なんで俺だけ逃げなんだよ!
最近の俺、運が悪すぎるぞ。
ますます新入生歓迎会に参加したくない。
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