1512人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
「残念だったね。」
そう言ってはいるものの、気持ちは全く込もっていない言葉をかけてきたのは、無事に鬼になった葵だ。
ていうか寝てたんじゃなかったのかよ。
起きてたなら自分で引けよ。
俺の悲しさももう少し小さかったかもしれないのに。
自分が引くときに外して、他人の分を引くときには当たったって、どれだけ悲しかったかわからないだろ。
「お前は鬼だったよ」
「聞こえたよ」
「お前、いつから起きてたの?」
「起きてはいなかったけど、一応ずっと聞こえてたよ?」
「寝ながら聞いてたってこと?」
一体どんな神業だ、と聞いて呆れる。
「俺は逃げだったよ。本当に面倒だ。」
「頑張ってね。俺はどこかで寝てるから。」
「いいよな。交換しろよ。それ引いてやったの俺だぞ?」
「やだ。」
本当に面倒だ、としか言えない。
フルマラソン並みに体力を消耗するなんてごめんだ。
その上、蘭がまた何かニヤニヤしてやがる。
何か食堂の時のようなことが起こるのは確実と言っていいだろう。
やはり隠れて見つからないようにすることを最優先に行動すべきだな。
授業終了のチャイムがなる。
俺は放課後、この決定を覆す唯一の希望にかけて、とある場所へ行くことを決意した。
*
「────と、いう訳で俺を鬼にしてほしいです!」
「却下だ。阿呆。」
俺は鬼になるため、生徒会室に来ていた。
新入生歓迎会を企画した生徒会に直談判して鬼にして貰おうと思ったのだ。
まあ、確率が低いことはわかっていたし、逆に通ったらおかしいと思っていたけれど。
で、今会長に即座に却下されました。
やっぱりダメか。
「お願いします。俺そんなに体力がないんですって。」
「運動部のレギュラーにも劣らないクセに何を言っていやがる。」
「流石にそれは無理がありますよ、五十鈴。」
はい、そうですね。
体力あるけど使いたくないだけです。
一縷の望みをかけて来たけれど、世の中そんなに甘くはなかった。
「大体、なんでそんなに逃げが嫌なんだ?」
「疲れるからです。」
「本当に、それだけか?」
最初のコメントを投稿しよう!