歓迎なんてしていない。

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「おー、夏樹よ。久しいの。」  ドアを開けると、来客用のはずのソファに堂々と座ってこちらを見ている人がいた。  青みがかった黒の髪。  すらりとのびた長い足。  左の眼にある涙ぼくろが妖艶さをかもちだしている。  純和風と言った雰囲気だ。  外見はそれなのに、来客用のソファに座って菓子をつまんでいる。  その様子では、言い訳する余地も無くサボっているようだ。  そして、その特徴的な口調では間違える訳もなく、風紀副委員長、文月(フヅキ)真弥(マヤ)その人だ。 「生徒会からの書類を届けに来ました。委員長いますか?」 「生徒会のパシリか。お主も大変よのう。」  イラっときた。  文月先輩はにやりと笑いながらそう言う。  クールな容貌にいたずらっ子のような表情は、意外にもマッチしている。 「もう少し生徒会との関係を改善してほしいです。」  そうすれば俺はパシられることは無くなる。 「我としてはそれでも構わんのだがの。そういう訳にはいかんのだよ。我一人の力ではどうにもならん。」 「知ってますよ。ただの願望です。」 「叶う可能性は皆無と言っていいがな。」  それもわかっている。だがもう書類のやりとりぐらいはできるようになって欲しいものだ。  あの二人を見れば、それすらも不可能であることが、簡単に理解出来てしまうのだが。 「篠原にであったな。奥の部屋におるであろう。」  勝手に行けとばかりにそう言った。  本来、奥の部屋は風紀委員以外は、風紀委員の同行がなければ一般生徒は入ってはいけないのだが、この人はそれすらも面倒なのだろう。  今更のことなので指摘したりはしないが。 「失礼します。委員長いますか?」  数名の風紀委員がこちらを向く。  声をかけたのが俺だとわかるとすぐに仕事に戻る。  それくらい俺はここの常連なのだ。  俺は部屋の一番奥に目を向ける。  そこに座っているのは風紀委員長。  風紀委員にも比較的美形が多いのだが、それすらもかき消す圧倒的な存在感。  生徒会長と並び、この学園の頂点に立つ人物。  さらさらの黒髪に琥珀色の瞳。  ランキングは2位だが、それは誤差の範囲であったという。  俺はその人の方に向かって歩いた。
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