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 母は度重なる流産の末、四十二歳という高齢で私を産んだ。帝王切開だったと言う。母は体の弱い人で、重い病をいくつも経験していたそうだから、まさに命を削っての出産だったのだろう。母は私を大変に可愛がった。うんざりするほど。  私は母を毛嫌いし、それによって母は常に傷ついていた。傷ついた母が縋る先は、愛娘しか居なかった。父は大らかで気のいい人だったが、頼りになる人物にはなかった。都合のいいこと、楽しいことにだけ首を突っ込み、責任からは逃れる性分だった。  私は母に愛されていた。だがその愛は、半分が自己憐憫でできていた。その粘っこい深い情愛に絡められ、私は息苦しくて堪らなかった。  故に、私は逃げ出した。もうすぐ二十歳の夏だった。
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