「ありがと」

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 けど、人間が見れなくなったのは寂しい事だった。  この廃墟に人が訪れることはまずない、そして僕から街に行くことも出来ない。  もう、彼女に会うことも出来ない。さよならは済ませた。石になった僕を見せないために、僕は彼女の前から、街の中から姿を消した。  覚悟は出来ていたんだ。  なのにとても悲しくて。僕は一人で何時間も耐え続けた。  そしてかなりの時間が過ぎてから、廃墟に一つの音が木霊した。  金属的な乾いた鈴の音。その音の主を僕は見ることが出来なかったけれど、後ろから徐々に音が近付き、ついには僕の頭の上で鳴いた時。僕は理解できた。  あの日彼女が助けた黒猫。あの日僕の背中に登り、頭の上で退屈そうにあくびをしていたあのクロ。確か、彼の首輪は朱色で鈴が付いていた。  彼が僕の上に居るんだと。あの日の様に感触はないけれど、何故か僕にはわかってしまった。  そして、その日からクロはよく僕の頭の上に登って鳴くようになった。そして、その鳴き声に呼ばれてなのか、色んな猫がこの廃墟に集まって、僕の周りに来るようになった。特に僕がずっと眺めていた影は彼らにとって涼しいらしく、僕の視界には常に猫が居るようになった。  それがなんだか、孤独を埋め尽くしてくれているような気がして。僕は嬉しかった。
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