「ありがと」

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「やめてくれ!死にたくないっ!」 そんな声が響いて、僕は急いで駆け出した。何があったのか分からないけれど、助けを求める声がしたから。 けど、遅かった。 沢山の蛇の赤い目が、口を大きく歪ませて笑う女性の姿が、暗い路地裏の中ではっきりと浮かび上がっていて、僕は咄嗟に隠れてしまった。 そして再び顔を出した時、あったのは人間だったもの。石化してしまったそれからは、命を、力を、感じられなかった。 その苦悶に歪んだ表情が、逃げようと地面を引っ掻いていた手が、石となって砕かれていた足が、どうしようもなく怖くなった僕は、急いでその場を駆け出した。
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