2. 心はどしゃ降りなんやって

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2. 心はどしゃ降りなんやって

私の家から中学校まで、直線距離で400メートル。田んぼの向こうに校舎が見える。真っ直ぐ行けたらすぐ着くのに、間に川がある。橋は川下にあるから通学距離は結局、倍ぐらいになる。 すぐそこに見えるのになあと、毎朝恨めしく思いながら走っている。 あーあ、テレポートできたらいいのに。そんな非現実的なことより、もっと実現可能なことを考える。あの川はいつも水が流れていない。だから渡れるんでない? 川の深さを考えると……ムリか。地道に遠回りだ。 「……おはよー、夏生」 向こうから朔実が来た。目が開いていない。 「おはよ。むちゃくちゃ眠そうやけど、また夜中に描いてたん?」 「ああ、ふん。あとちょっとなんやけどね。まだ仕上がってないわあ」 朔実はマンガ家志望だ。それでいつもストーリー作りのために、ネタを探している。この間の「夏生頭痛初体験」も、ネタ帳に入っているそうだ。それに人物観察も鋭い。 そして私とは「一卵性他人」だ。どこか2人は似ているらしい。おかっぱの黒々とした髪か、くいっと上がった気の強そうな眉か、二重のでかい目か。私の方が団子っ鼻だけど。よくしゃべる口は、2人とも大きさ以上に存在感がある。どの先生も私たちの名前を呼び間違える。きっと、クラスの中の立ち位置がいっしょなんだ。同じ教室にいれば区別はつくんだろうけど、保育園からの10年間、ほとんど違うクラスだ。
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